鼎談「セクショナリズムから遠く離れて」

 

2016年1月6日 於:秋葉原 DMM.make AKIBA

 

根津――根津孝太(znug design 代表)

郡司――郡司典夫(中央公論新社学芸局)

久米――久米泰弘(書籍編集者)

 

 

 

> 第8回 「キャラクター」について

 

 

第9回 「効率」について(前編)

 

郡司――ひとつ質問なんですが、「効率」についてどう考えていますか?

 

久米――ああ、そもそも「効率」って、どういう意味で理解してるんだっけ?

 

根津――そもそもの意味から言えば、「効果÷コスト」でしょうね。コストは具体的には時間やお金です。ですから「生産効率」という言葉の使い方は正しいと思うけど、「管理効率」という言い方は、本来の意味における「効率」とは相容れないと思っているんです。それは管理する側だけに資する特殊条件において、効率化を進めてしまうことだからです。ぼくは生産効率を追求していくことは必要だと思うけど、管理効率を過度に追求した結果が、この世の中を窮屈なものにして、閉塞したセクショナリズムを露呈させてしまったんじゃないかと考えています。

 

郡司――そう考えると、コミュニケーションというのはもともと効率の悪いものだとも言えるわけですよね。いいモノをつくり出すには「クリエイティヴ・コミュニケーション」はとても重要な営みだけど、効率という意味では、ものすごくコストがかかる。

 

根津――はい。定番商品のように、変化が必要ない予定調和的なモノづくりだったら、余計なコミュニケーションは要らないし、効率を悪くするだけかもしれない。でも、規定演技を超えたモノづくりをしなければ、あたらしいプロダクトは生み出せないんです。過去の製品を超え、さらにお客さんの想像を超えて喜んでもらえるようなモノをつくるには、新しいアイデアが必要だし、それをは育むための、さまざまなコミュニケーションが不可欠なはずです。

 

郡司――コミュニケーションの量ではなく、質を上げる。

 

根津――そうです。ただいたずらにコミュニケーションに時間をかけるだけなら、それは効率的な営みではありません。でも、本質的な目的は、世間があっと驚くような製品をつくることです。そこへ到達するために必要不可欠なプロセスであるなら、どれだけ時間を費やそうとも、それはいちばん効率のいいコミュニケーションだと言えます。コミュニケーションを重ねることでしか到達できない高みもある。ぼくはそんなふうに思っています。

 

久米――この本づくりで採用した方法も、言ってしまえばものすごく効率は悪いんです。月に1度か2度、2時間とか3時間とか話して、テープにとって、それをただ文字に起こすだけではなく、ぼくなりに解釈をして、書いて、根津さんに見てもらって、また話し合って、直しを反映させて、すでに単行本3冊分の原稿がここにある。でもまだ頂上は見えてこない。こんな方法では、それこそコストがかかって効率が悪い。でもそうでなければこの本はつくれない。そのことをきちんと見据えている限り、ぼくはこの本づくりは効率が悪いとは思わない。

 

根津――そうですね。ぼくたちは最大効率のコミュニケーションをとっていると思いますよ。

 

郡司――端から見ればきわめて効率が悪いようでも、本人たちはいちばん合理的なやり方で本をつくっている。

 

久米――いま、感情論って人気ないけど、感情が乗っているから効率が悪いとは思わないんですよね。もちろん、感情論を盾にして本を編集することは絶対にいけない。きちんとした論理に裏打ちされていなければ、読者に訴求することはできない。ただ、その過程は、感情にまみれたコミュニケーションであっていいと思うんです。仮に意見が対立して、ケンカ別れしてしまうようであれば、はじめから本をつくる価値などなかったという考え方です。意見が対立しても、お互いの考えにコンフリクトが生じても、目指すところは同じ頂。心がこもった熱いコミュニケーションから導き出される論理こそが強いんだと思ってるんですね。

 

根津――それはおたがいに感情を解放して、どこかで一致点を見出そうとしているからですよね。だいたい対立意見がないというのは、クリエイティヴィティにとっては危機的状況です。いつも思うんですけど、ぼくが最初に出したアイデアに対して、みんなから「素晴らしい」という賛同の声ばかりだったら、「ヤバい、このままだと自分の思いどおりのモノになってしまう」という危機感しか感じられません。

 

郡司――そこが根津さんのユニークなところですよね。ふつうは一発で賛同を得られれば自信をもって、そのまま進めることを了とする。

 

根津――そうですよね(笑)。

 

久米――だからいつも、「ホントにそうか?」という問いかけが大切なんです。

 

根津――ぼくひとりで考えたものが、みんなが喜んでくれるような素晴らしいものであるはずがない。それはぼくの基本的な考え方ですね。

 

 

つづく

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